それは過ぎ去ってゆく時代









待ち合わせの場所にやってきたゾロが、あれ、という顔をして、それから目を細めて笑い、
サンジを揶揄するように見やったので、サンジはやっぱり今日は無理になったと嘘をつけばよかったとおもった。
「あれお前、バイクは?」
「・・・ちょっと。」





この前に会ったとき、次に会うときの約束をした。
駅に5時。
どきどきしながら、それを押し隠すためにゾロのほうを向かずにさらりと、
授業終わったら駅までバイクで迎えいにいくから、と言ってあった。
仕事帰りのスーツのままのゾロを後ろに乗せて走る妄想は、女の子と2ケツする妄想よりもなんだかずっと刺激的で、
だからこそそんな高揚を知られるわけにはいかなかった。
なのにゾロは何もかもお見通しのようで、サンジをたまらなくぞくぞくさせる方法で、
そうか、と面白そうに口元をきゅっと引き上げたのだった。





「ふうん。」
サンジの明らかなごまかしに対し、ゾロは興味なさそうに鼻を鳴らした。
「それより、腹減った」
「おう、後ろ乗れ」
とサンジが指差したのは潮風で錆付いたママチャリの荷台で、でもゾロは素直にそこに跨った。
海の見えるレストランの、2階にサンジは住んでいる。
歩いたら1時間くらい。
バスはだいたい1時間に1本。
バイクの免許をとってからまだそう経っていなくて、ほんとはまだ二人乗りをしてるのがばれたら点数引かれる。
着替える暇がなくて学ランを着たままのサンジが、後ろにきちんと背広を着ているゾロを乗せて、
車のほとんど通らない海沿いの車道を、サンジのうちのレストランに向かって、ぼろっちい自転車で走る。
桜が終わって、春の真ん中に立って、暖かく、胸の奥に秘めたつぼみがほころびはじめている。





「で、お前、バイクはどうしたの」
唐突にゾロが聞く、水平線につかってゆく太陽は赤橙、潮のにおいの風が吹いて、
すがすがしい気持ちだったので、熱をはらんだ胸の中身をぶちまける代わりに素直になった。
「海岸とこ置いといたらレッカー移動された!」
「うわ、お前ばっかでー」
「担任がぐだぐだめんどくせぇんだもん。で、あわててクラスのやつにチャリ借りたの。」
「かっこわりぃなーお前」
「うるせ!」
背伸びをしてみては失敗して、かっこわるいことこの上ない。
でもそれは彼が今だから持っているものの代償だと、意識はせずとも知っている。
代わりにゾロがうなるくらい美味いものを作って食わせてやろうとおもう。
「夕飯は期待していいぜ」
「おう」
お互い、相手に語りかけているのか、空気に語りかけているのか、声は風に乗って流れていってしまう。
背中にゾロの体温をわずかに感じる。
ゾロは足を窮屈そうに縮めて座り、手はしっかりと荷台をつかんでいて、腕はサンジの肩にも腰に回ることはない。





「・・・まあでもお前、昨日毛が生えそろったばっかだもんな」
「ああ?」
ゾロのつぶやきに思わず振り返ると、おもいきりバランスを崩して倒れてしまった。
うまいこと後ろに飛びのいて転倒を免れたゾロがにやにやと見下ろしてくる。
自転車の下敷きになった左足を引き抜いて立ち上がると、すりむけて汚れた手のひらを気にもせずにゾロの肩をつかみ、
ぶつかるようなキスをしかけた。
「・・・こんな場所で、クソガキが」
ほんのりと頬を染めたゾロが、手の甲で唇を覆う。
けれどまだ17で、世界の総てが彼のために捧げられているサンジに、手に入れられないものなどひとつもないはずなのだ。








高校生サンジ×年上社会人ゾロ。たとえばこんなかたち。