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サンジがちかごろアヒルでしかなく前みたいにたまに人間のかたちになったりしなくて
すこしへんかなと思いはじめた日、人間のかたちをしているときのサンジそっくりの男がやってきた。
サンジと同じ名前を名乗る。
ゾロのうちのサンジがふたりになった。
アヒルの姿と、人間の姿をしている、ふたりに。
人間のサンジはアヒルのサンジが人間のかたちをしているときよりも、ほんものの人間に近い。
というか、ほんとうにほんものの人間なんだろう。
言葉も拙くないし、日常生活の行動もきちんとできるし、なにより料理ができた。
最近は毎日人間のサンジの作ったごはんを食べる。
だけど人間のサンジもアヒルのサンジが人間のかたちをしているときと同じように、
ゾロ好き、と言ってはゾロにからだをよせてくる。
それをアヒルのサンジがつっついてじゃましたりするものだから、ふたりの仲は、よくない。
ゾロにとってだって人間のサンジがくっついてくるのは、
アヒルのサンジが人間のかたちをしているときにくっついてくるのとは話がちがう。
あれはすがたは立派な青年だったが、中身がまるでこどもだった。
幼いしゃべりかたや頼りない動作でくっつかれるのはかわいかったが、人間のサンジはそうではない。
きちんとした人間のように過ごしている。
だからくっつかれるのは嫌じゃないけれど戸惑いが大きくて、
アヒルのサンジが邪魔してくれるのが好都合だった。
ゾロはアヒルのサンジを膝にのせて、くちばしをするすると撫でるのが好きだった。
人間のサンジが不満そうに見ているのも、かわいそうかなと思いながら、ちょっとおもしろかった。
ある日、ゾロが家に帰ってくると、おいしそうな夕ごはんのにおいがしていた。
「ゾロ、お帰り」
「ただいま」
帰ってくるとまっさきにとんでくるはずのアヒルのサンジがこないから、少し変だなと思った。
ゾロが絡まないかぎり、ふたりはお互いには興味なさげにしているから、
留守中も特に心配はしていないのだが、どうかしたのかな、と思った。
「夕飯、もう出来てるよ」
部屋を見渡しても、アヒルのサンジの姿は見えない。
きょろきょろ見渡していると、サンジが大きな皿をテーブルの上にでんと置いた。
「サンジは?」
「おれ?」
「アヒル」
わかりきったことを聞くな、といらついた調子の声になった。
実際、けっこうむかつく。
「ああ、あのアヒルね」
いくら仲が悪いからってそんな言い方、
ゾロにとっては大切な、たまに人間になったりしてたアヒルだというのに。
「あいつゾロにべたべたして気に食わないから夕飯にしちゃった」
テーブルの上の大きな皿の、中身は肉のきれはしみたいなのたくさんと、長ねぎきざんだのと、皮。
北京ダック。
「・・・!!!」
息をのむと、とおくからぎぃぎぃいう声がした。
振り返ってカーテンを開けると、ベランダにちゃんとアヒルのサンジがいた。
あわてて部屋のなかにいれて、ぎゅっと抱いた。
「なーんだ、すぐばれちゃった」
人間のサンジはまるで悪びれない。
アヒルのサンジを床に下ろして、人間のサンジを引き寄せる。
ぎゅっと抱いてみる。
一瞬、行動を忘れたみたいになったところを、ベランダの外に押しやって、窓を閉めて、鍵をかけた。
カーテンも閉めた。
「ゾロー、開けてよー」
どんどんと窓ガラスを叩く音がするけれど、無視してもう一度アヒルのサンジを抱きしめる。
「ごめんなさいー、もうしませんー」
段々声が必死になってきて、可哀想かなと思うけれど、ほうっておいた。
いつからベランダにいたのだろうか、頬を寄せるとアヒルのサンジの白い羽根はひんやりしていた。
「ゾロ、ゾーロー」
腕の中から抜け出したアヒルのサンジが、
カーテンの隙間から部屋の中をのぞきこんでいる人間のサンジを見上げて、勝ち誇ったように笑った。
ような気がした。
2月11日の日記より。