萌え萌え納豆☆ビビタン






第一話 私が変身!?ありえない!!








平和なアラバスタ町の朝、8時10分。
小鳥がさえずり太陽が微笑む平和な時間に、ひとりの少女の甲高い声が響きわたる。
「んもう、イガラムったらどうして起こしてくれなかったのー!」
「ですからビビ様、私は何度も起こし申し上げましたが・・・」
「ふえーん靴下がないよー!」
ドタバタと学校指定の靴下を探す少女の名前はネフェルタリ・ビビ。
グランドライン中学校2年3組の、ごく普通の女の子である。
「いやーもう間に合わないー!!」
叫びながらセーラー服を来、青い長い髪をとかしもせずにポニーテールにまとめると、
置き勉をしていてぺらぺらの鞄を肩にひっかけて玄関のドアを開ける。
「いってきまーす!」
「ビビ様ご朝食は?」
「食べてる時間がないわ!」
もつれそうになる足をローファーにつっこんでいると、
「ではとりあえずこれを」
と、イガラムがママレードを塗った食パンをくれた。
口にくわえて猛ダッシュする。
予鈴が8時25分。
その5分後の本鈴に間に合わなければアウトだ。
「近道ちかみちっとぉ」
道のどん詰まりの塀を、スカートがめくれるのも構わずに飛び越え、
一人暮らしのおじいちゃん(もう起きてテレビを見ている)のうちの庭を横切ってまた塀を越える。
「とうっ」
着地地点はゴミ捨て場。
今日は水曜日だからゴミの収集はないはず、と油断したら、見事になにかに足をすべらせて転んでしまった。
「いったあーい・・・」
見れば、カラスかなにかが指定外の日に捨てられたゴミ袋をつついた跡があり、
そこらじゅうにパンやお菓子の袋だのコンビニ弁当のパックだのが転がっていた。
「誰よもぉう!今日はゴミの日じゃないんだからねッ!」
その時、羽音も高らかに一羽の鳥がゴミ捨て場の塀におりてきた。
大きくて立派な白い体に、見たことのない珍しい模様が入っている。
「きれーい・・・」
その鳥は、納豆のパックらしき白くて四角いものを口にくわえていた。
「なんで納豆?」
首を傾げたその時、中学校の方向から予鈴の音が流れてきた。
「いっけない遅刻!」
ビビが立ち上がり足を踏み出すと、もやもやとした半透明の糸状のなにかが靴の裏にくっついていた。
「なにこれっなんか汚い!」
靴の裏で地面をぐりぐりやってから鞄を肩にかけ直すと、ビビは学校に向かって一目散に駆け出した。
その背中を見つめる者があった。
「やっと見つけた、伝説のお○め納豆戦士・・・」





「おはよ。今日はギリギリアウトだったみたいね?」
結局遅刻して週番の先生に生徒手帳を取り上げられたビビが机に突っ伏していると、
クラスメイトに声をかけられた。
「ナミさん!おはよう、そうなの変な鳥に気をとられて・・・」
「変な鳥?」
そうなのよ、とビビが興奮して話しだそうとした途端、ぐぅ・・・とマヌケな音でおなかが鳴った。
腹をかかえて机にぺたん、とほっぺたをくっつける。
「おなかすいた・・・」
「朝ごはん食べてないの?」
「時間なくって。走りながら食パン一枚食べたけど、あれじゃおなかにたまらないんだもん。
やっぱり朝は納豆ごはんよね」
「え、パン一枚で充分じゃない。だいたい私は嫌よ、朝から納豆ごはんなんてベタベタするもの」
「なに言っている!納豆は植物性タンパク質で体にいいし、」
と反論しかけたら、タイミングよく一時間目の数学の先生が教室に入ってきた。
「ほら先生来たよ」
「あっ・・・今日私練習問題当たるんだった・・・」
ビビががっくりと肩を落とす。
「ノート貸してあげるわよ、500ベリーで」
ナミはニッコリと微笑んで席に戻っていった。





放課後。
クラスメイトたちとのおしゃべりに夢中になっていたせいで、帰りが遅くなってしまった。
だいぶ日が傾いており、カラスもカァカァいいながら家に帰っていく。
今頃はイガラムが美味しい夕食を作って待っているだろう。
「また近道するか」
朝も通ったゴミ捨て場の前にやってくると、ちらかっていたゴミはすっかり綺麗になっている。
「きっと隣の家の人が片付けたんだわ。決められた日に捨てないなんて無責任なヤツ!」
またパンツまる見せになりながら塀をよじ登るビビの後を、何者かがつけていた。
そのことに気付かないままビビは家に着いた。
「ただいまー」
奥からエプロンをかけたイガラムがパタパタとスリッパの鳴らしながらでてきた。
「おかえりなさいませ、ビビ様」
「あーいいにおい。夕飯、なんなの?」
ローファーをぽんぽんと脱ぎ捨て、きちんとそろえてからダイニングに向かう。
「今日はサンマの塩焼きです」
「納豆は、ある?」
「もちろん用意してございますよ」
「ありがとうイガラム!すぐ着替えてくる!」





ビビの部屋は、家の南側に面している。
暗くなりかけた空を見上げると、一番星がきらめいている。
制服を着替えるのも忘れて見惚れていると、コツコツと窓を叩く硬質な音がした。
「え?何?」
思わず窓を開けると、大きな鳥が部屋の中に入ってきた。
外に出さなくては、と慌てる間もなく、鳥が大きな音をたてて爆発し、煙が部屋中に充満する。
「ちょ、」
とっさに火事のとき煙を吸ってはいけないと習ったことを思い出してしゃがみこむ。
ぎゅっと瞑った目を恐る恐る開くと、そこにはもう煙はなかった。
見上げた先には代わりに、白い衣を身にまとった見知らぬ男がそこに立っていた。
「はじめまして、ビビ様。私はお○め納豆の星からやってきた使者、ペルと申します」
彼は慇懃に膝をつき、ビビの手をとるとそっとキスをした。
「!!!!??」
「突然のことで申し訳ありませんが、あなたの力を貸していただきたいのです」
ペルの目は切実だ。
その顔をよく見れば、目の周りから頬にかけておかしなメイクがほどこされているものの、
なかなかの美形である。
「私で力になれることであれば」
「それではすぐに、行きましょう!」
ペルに腕を引かれて窓から外に出る。
「わっ、私靴履いてないんだけど!」
「問題ありません」
窓枠に足をかけ、ペルが外に向いた途端、煙とともに彼は大きなハヤブサに姿を変えた。
今朝、ゴミ捨て場で見たのと同じ鳥だが、今のほうが随分大きい気がする。
「さあ、私の背中に乗ってください」
「私、重いよ?」
「大丈夫です。さあ」
ビビが恐る恐るその背中にまたがってしがみつくと、ペルは飛び立った。
「さっむぅぅううぃぃいいいい」
着のみ着のまま、制服だけで来てしまったビビに空の上を飛ぶのは寒かった。
気温が低いばかりでなく、風が身を刺すようだった。
「でも飛んでる!すごい!アラバスタ町をこんなふうに空から見下ろすなんて、はじめて!」
「これがあなたの町です。そして、あなたの守るべき町」
「え?」
聞き返しても、ペルは何も言わない。





やがてペルが着地したときには、ビビはほとんど凍え死にそうになっていた。
「寒い寒い寒い寒い寒い」
両手で体を抱くようにしてガタガタ震える。
靴をはいてこなかったから、靴下のままの足の裏も痛い。
再び人間の姿になったペルが、すまなそうに謝る。
「申し訳ありません、でもここを見てください」
「ゴミ捨て場・・・?」
いつも、近道をするときに通るゴミ捨て場だった。
「そうです。今朝、あなたが通った場所です」
「ここがどうかしたの?」
「今朝、ここにゴミが散らかっていたのをおぼえていませんか」
「うん、覚えてる。今日はゴミの日じゃないのにっておもったから」
「あれは、近頃この町を荒らしている悪の組織、バロックワークスのしわざです」
「ばろっくわーくす?」
「そうです。あいつらは強大な闇の力である引きわり納豆の力を使って
世界を支配しようとたくらんでいるんです。その手始めにこのアラバスタ町を征服しようとしている」
「それでゴミを散らかすって、変なことするのね」
ビビの突っ込みを、ペルは熱くスルーした。
「そこであなたにお願いがあります。お○め納豆戦士萌え萌え納豆ビビタンに変身して、
この町を守って欲しいのです」
「お○め・・・納豆ビビタン?」
「そうです。これはあなたにしか出来ないことなんです」
ペルがビビの両肩に手を置き、ぐっと力をこめた。
「私にしか・・・できない・・・」





そのときである。
突風が吹いた。
とっさにペルがビビを庇う。
ペルのマントが風に強くなびいた。
風がやんで目を開くと、あたりには空き缶や腐った野菜、
肉のトレイや鼻をかんで丸めたティッシュなどの大量のゴミが散らばっていた。
「なにこれ・・・」
ゴミの向こうから、黒い影が近づいてくる。
「あれは・・・ミスターセブン!」
ペルが驚いたように叫んだ。
「誰なの?」
「バロックワークスの幹部の一人です。もうこんなに力をつけているとは・・・予想外だった」
ミスターセブンと呼ばれた男は、八の字の眉毛に垂れ目、頭にはゴーグルをつけており、
高笑いをしながらこちらに近づいてきた。
「オホホホホ!そこにいるのはお○め納豆の星のペルさんじゃないですかねー」
気味悪さにビビが後ずさりすると、靴下が妙にベタベタする。
見ると、今朝と同じように納豆の糸のようなものが地面のあちらこちらににくっついているようだ。
「ビビ様、変身してあいつを倒すのです」
「ええ?!いきなりそんなこと言われても・・・」
困惑するビビに、ペルは白くて四角いものを手渡した。
「さあ、そのパックをかざして。『お○め納豆パワーメイクアップ』と叫ぶんです」
ペルがビビを急かす。
ビビは白いパックを天高くかざし、意を決して叫んだ。
「おかめ納豆パワー、メイクアップ!!」
その瞬間、周囲が納豆色の光に飲み込まれ、ネバネバとした細い光の糸がビビの全身を包んだ。
(なにコレッ・・・気持ちいい!!)
着ていたセーラー服は消え、いつの間にか一糸纏わぬ姿になったビビは、
しかし次の瞬間ときめく納豆色のコスチュームに身を包む戦士となっていた。
「なんだお前は?!」
「お○めの星からやってきた愛の戦士、萌え萌え納豆ビビタン!
邪悪な闇のしもべたちよ!とっととおうちに帰りなさい!」





「来たね、伝説のお○め納豆戦士、萌え萌え納豆ビビタン。
これで長年虐げられてきた引きわりの怨み、晴らせるってスンポー!」
ミスターセブンが両手を突き出し、その先から伸びたどす黒い闇の引きわり納豆の糸がビビタンを縛り上げた。
「ビビタン!」
「キャァァァ〜〜〜!!力がぬける・・・」
「オホホホホ、どうだね闇の力は。
この力を食らえば伝説のお○め納豆戦士といえどひとたまりもないってスンポー!」
「くっ」
ビビタンが顔を背けると、ミスターセブンは薄笑いを浮かべながら指を鳴らした。
するとビビタンのコスチュームがバリバリと高らかな音を立てて裂けてゆき、
その形のいいへそや白い乳房があらわになった。
「イヤァアアアアアア!!恥ずかしいところが見えちゃうぅ!!」
「いい眺めだねェ、萌え萌え納豆ビビタン」
ビビタンの肌が恥辱に染まる。
「やめてっ、離してぇッッ!!」
ビビタンは必死に身をよじって抵抗しようとする。
しかし、暗黒の引きわりの糸で縛られた状態では身動きひとつできない。
ビビタンは歯噛みした。
(私って、こんなにも無力だったの・・・?!)
ビビタンの目から悔し涙がこぼれおちる。
「諦めてはいけない、ビビタン!あなたの守りたいものを思い出てください!!」
ペルの声にはっとして顔を上げる。
平和なアラバスタ町を思い出す。
(そうよ、私はこのアラバスタ町の人々を脅かし、ご町内の平和を乱すやつを許さない!)
ビビタンの心に勇気がともる。
「なっ・・・なんだねこの光は!」
ビビタンは光を放ち、そして邪悪な引きわりの糸はするすると霧散していった。
「くそっ、目が見えない!」
「今です!ビビタン、右手をかざして『萌え萌え納豆ビビビーム』と叫んでください」
ペルに大きくうなずいてみせる。
「萌え萌え納豆!ビビビーーーム!!!」
ビビタンの右の手のひらから納豆色の光線が放たれる。
愛と萌えの光を浴びると、邪悪な引きわり納豆の力は無効化してしまうのだ。
断末魔の悲鳴を上げながら、ミスターセブンは透明な納豆の糸に縛られ、煙のように消えてしまった。
「よくやられました、萌え萌え納豆ビビタン」
ビビタンは満面の笑みで、
「ええ!」





こうして今日も、アラバスタ町の平和は守られた。
しかし敵はミスターセブンだけではない。
まだまだ厳しい戦いが、お○め納豆戦士萌え萌え納豆ビビタンを待ち受けているのであった。







2008年1月1日の日記より。