ちょうちょう結び
風の流れるきもちの良い日。
そろって昼寝をはじめて、すこし肌寒くなってきたころ、ゾロはサンジに起こされた。
「ぞろ、おーきーて」
サンジはゾロの上にまたがると、肩をつかんで上下にゆする。
「おっきてー」
ほんとうはもうすこし寝たかったのだけれど、こうなるとサンジにはかなわない。
なにせ、サンジはアヒルののうみそだから、ようするにこどもみたいなものだ。
日曜の朝に父親をむりやりたたき起こすこどものように、
手段をえらばないから、さっさと起きてしまわないととんでもないことになりうる。
「なんだよ、腹へったのか?」
ゾロはサンジをおなかのうえにのっけたまま、上半身をおこす。
サンジの顔がすぐそばにあった。
「ぞろー、むすんでー?」
サンジは、どこからもってきたのだろうか、赤いリボンをにぎっていた。
「なんだよこれ」
「うんめーのあかいいと!」
サンジは自信まんまんの体だ。
「はあ?」
「てれびでゆってたよ。うんめーのこいびとどうしは、あかいいとでむすばれてるって」
小指と小指が、赤い糸で、というあれのことだろう。
いったいテレビでどんな古典をやっていたのだろうか。
運命の赤い糸だなんて、あんまりにも古い発想で笑ってしまう。
「おれたちも結ばれてるってか?」
「うん!」
サンジは熱心にうなずく。
「そうか、じゃあ今さら結びなおす必要もねぇだろ。寝かせろ」
もう一度体を横にする。
「あっ」
サンジは追いかけるようにおおいかぶさってくる。
「やーだー、おーきーてー」
ほっぺたをびちびちとひっぱたき、耳をひっぱり、うわくちびるをひねりあげ、まぶたをむりやりもちあげる。
容赦というものがまるでない。
しかたがないので、再び目をあける。
「ぞろっ」
「なんだよ」
「むすーんーで〜〜〜」
「自分でやりゃいいだろ?」
「できねー」
「じゃああきらめろ」
「やだ!やってー」
「しょうがねぇな」
寝転がったまま、サンジから赤いリボンをうけとる。
1.5センチくらいの幅で、長さがけっこうある。
こんなリボンどっからみつけてきたんだろうか。
ゾロにはこんなものを部屋においたおぼえはなかった。
「手だせ」
「はいっ」
サンジは右手をさしだした。
結婚指輪なら左手の薬指だが、
運命の赤い糸というのはどこの手の小指につながってるものなのだろうか。
考えながら、ゾロはサンジの小指にリボンを巻きつけ、
ちょう結びにしてやった。
細かい作業はゾロの無骨な太い指には向いておらず、ぶかっこうな蝶になったが、
サンジは自分の手をうれしそうにながめている。
「ぞろも」
サンジはリボンのサンジに結ばれているのとは逆側のはしっこをつきだした。
「自分じゃできねぇよ」
「じゃあさんじがやる」
サンジはゾロの左手をとると、顔をぐっとちかづけて結ぼうとしはじめた。
サンジがちょう結びができないことを、ゾロは知っている。
以前どうしてもいっしょに買い物に行くというのでスニーカーを履かせようとしたところ、
自分で履くと言い張ったサンジは紐が結べず結局すねて行かなかったのだ。
「うー」
それでもサンジはリボンと奮闘して、ゾロの指になんとか結わえようとしている。
ゾロの指をしめつけすぎたり、ゆるすぎてするりとぬけてしまったりしながら、
なんとかサンジはゾロの指をつかまえることに成功した。
「できた!」
サンジはうれしそうに目を輝かせた。
しかし、リボンはサンジが握りすぎたせいでよれよれになっていたし、
その上結び方はだんご結びである。
ゾロは内心、これじゃあとでとれねぇじゃねぇか、とおもっていた。
「できたできたー」
サンジは喜んで、ゾロの左手とつながれた右手をぶんぶん振った。
すると赤いリボンはふたりの手の間でひらひらと上下にゆれた。
そうしているうちに、サンジの小指のリボンがほどけて、
しばらく空中で遊んでからベッドのうえにおちた。
「あー」
サンジはおどろいたような、がっかりしたような、まぬけな顔をした。
あわてて拾いあげて、またゾロにつきつける。
「むーすーんーでー!」
めんどくせぇな、とおもったが、口にだすのはやめておいた。
サンジの目がちょっと泣きそうにみえたからだ。
かわいらしいがほどけやすいちょう結びはやめて、
ゾロの手のと同じように、だんご結びでむすんでやった。
これはそう簡単にはほどけないだろう。
ふたたびつながれた赤い糸を見て、サンジが笑う。
「ぞろー、すきっ」
「はいはい」
見えないほうの運命の赤い糸も、なかなか固く結ばれているようだ。
6月19日の日記より。
アヒル・・・?
読みにくくてごめんなさい。