ドルチェ・ヴィータ
ゾロの肌はロイヤルミルクティーの色をしている。
それもダージリンで入れた、丁度サンジの好みにぴったりの、きもち濃い目の。
目は深い茶に輝くチョコレートのようで、なるべくして自分の恋人になったんだと、サンジはうれしくなる。
「ゾロ、そろそろ起きなさい」
年下の恋人は寝ぎたなく、起こすのは至難の技だ。
でもそれを楽しいとおもえるくらい、ゾロは久しぶりの恋人だった。
ショコラティエが注目されるようになってから仕事が忙しかったし、
なにより新しい恋をするなんて、自分はもうそんな年じゃないとおもっていたのだ。
このままひとりでも、まあいいかと前向きにあきらめていた。
「今日は早いんだろ?」
髪を撫でてやるとゾロは気持ちよさそうに鼻をならした。
ゾロはやたら照れ屋なくせにやさしい扱いや恥ずかしいくらいの言葉が好きだ。
それに甘いものが大好きなのだ。
ふつう甘党というと髪も頬も胸もふわふわの女の子を想像したくなるだろう。
ゾロは真逆だ。
髪はちくちくで、頬は青年らしい張りがあるし、胸板なんか同じ男として嫉妬したくなるほど若くてたくましい。
だけどゾロは甘いものが好きだ。
甘党に案外男性が多いことをサンジは知っている。
それも、ロマンチストの男性だ。
女はなんだかんだ言ってリアリストだから、甘味や苦味、酸味のバランスをわがままに求める。
ひたすらに甘いだけのチョコレートをこどものように好むのは、ゾロみたいなロマンチストの男性なのだ。
「ゾーロ、起きなさいって」
ゾロは起きない。
代わりに布団を頭の上までひっぱりあげた。
タヌキだな、と判断して秘密兵器を用意する。
布団をめくると、ゾロはまぶしそうに眉をひそめた。
ひどい顔なのに、なんだか動物みたいでかわいくおもえる。
「ゾロ、口あけて」
おとなしく従って、ゾロは唇をうすく開く。
そこにチョコレートをすべりこませてやる。
サンジの店の商品だ。
見た目が黒い宝石のようで、舌ざわりはなめらかだ。
やがてゆっくりと溶けだす。
最高級のチョコレートを、寝起きの口に惜しげなく与える。
サンジだけができる贅沢だ。
糖分は脳を起こすのにいい。
ゾロの口内で舌が動き、チョコレートが溶かされていくのがわかる。
「目、覚めた?」
「んー・・・」
ゾロは薄目をひらいたが、再び重たそうなまぶたを閉じてしまった。
「もいっこくれたら起きる」
「あまったれ」
そう言いながらもサンジは二つ目を口に入れてやる。
ゾロの頬が無意識にほころぶのを見届ける。
それからすぐに唇をかさねる。
溶けかけのチョコレートが甘い。
舌をすりあわせるように甘味を伸ばすと、ゾロは夢中で舌を絡めてきた。
文字通りの、甘いキスだ。
サンジが満足して唇をはなすと、ゾロは目をあけていた。
色づいた目元が色っぽい。
ついでに起こしてしまったゾロの下半身も世話してやる。
ゾロは息をあげながら、達するとかすれた声で言った。
「・・・えろおやじ」
「なんとでも」
サンジは、ゾロと一緒の甘い生活を愉しんでいる。
タイトルはサーティーワンのアイスから。甘い生活という意味らしい。いいなー。
花貴さんへ送る中年。