ハンドクリーム









今日もゴーリングメリー号の面々は、気持ちよいほどたくさん食った。
だから食後の皿洗いの量は半端じゃない。
鼻歌を歌いながら最後の一枚をゆすぎ終えると、
テーブルにつっぷして眠っていたはずのゾロがいつのまにか眼を覚ましていた。

「終わったのか?」
「終わったぜ」
「じゃあ、手」

意味を理解しかねる。
次のゾロの言葉を待ちながらエプロンの裾で手についた水滴をぬぐう。
白い綿のエプロンは水分をよく吸って、すぐに布の色が変わった。

「手、出せ」

両手を開いてゾロに差し出す。
節くれだった手の皮膚は白く、しかし水仕事ですっかり荒れてかさかさしいる。
おれの大事な働く手。
ゾロはいそいそとハラマキの中からなにやら取り出している。

「チョッパーが、塗ってやれって」

取り出したオレンジ色のチューブはハンドクリームらしい。
ゾロの隣の椅子に腰掛けて、チューブの蓋を開け中身を押し出すゾロを見つめる。
ゾロはまずおれの左手を取ると、その手の甲に1センチくらいの長さのハンドクリームをのせて、
注意深く自分の左掌を使って塗りこんでいった。
さっきまでの水仕事で冷えたおれの手に、ゾロの手は温かい。

「お前の手、冷たいな」
「ここんとこ水が冷たいからな。それになんか、硬い」
「水が硬いのか?」
「なんとなくの感覚だから、まあおれにもよくわかんねぇけど」

両手でおれの手を包み込むようにして塗り終えると、今度は右手にも擦り込む。
その手つきはとても普段のゾロからは想像できないほど丁寧だ。
指と指と絡めるようにして指の側面にも、掌で指先を擦るようにして指先にも、
隅々までハンドクリームが行き渡った。

「ん」

そしてゾロの手が離れていった。
油分と同時にぬくもりをおれの手に残して。
ゾロはハンドクリームのチューブをハラマキにしまった。

「あ、いけね、忘れた」

そういったが早いか、ゾロは再度おれの手をとると、指先にそっとくちびると重ねた。
左手、それから右手に、ゾロの薄いくちびるがぶつかった。
ゾロのくちびるにハンドクリームがついて、かすかに光っている。
呆けた顔で見つめると、ゾロは言い訳のように

「こうすると早く良くなるって、ナミが」

ナミさんが?
いやいや今のは嬉しい状況だろう、でも、目の前の頭がついていかない。
瞬きばかりを繰り返した。
そして何故だか口から出たのは、こんな言葉で。

「ついちまったな」

ゾロの頬に手を添えて、そっとそのくちびるを親指でなぞった。
手は震えていた。
ゾロはゆっくりと一度音のしそうな瞬きをすると、くちびるについた光沢を舌でぬぐった。

「甘い」

おれの頭と、胸とが、甘く焼け焦げた。







なにをーあたしだって海賊かけるもん!ぱられる以外もかけるもん!
と意気込んだもの。
一度は挫折したものの某絵ちゃで絵師様方にリクエストして素晴らしい絵を描いて頂けたので
萌再燃し勢いで上げました。
・・・かいぞくって?