foreigner, stranger, alien
そこそこ値段が安く、そこそこ清潔なホステルに宿泊して、今日で2日目だ。
従業員も愛想がよく、聞けばなんでもこと細かに教えてくれる。
安価なスーパーマーケットも近いし、特に不満は無いのだが、
真向かいのパブで酔客が真夜中、悪くすると明け方まで騒いでいるのには、正直辟易している。
一階の共用キッチンの冷蔵庫を開け、入れておいたビールが無くなっているのを見、ゾロは舌打ちをした。
名前を書いておこうが袋に入れておこうが、持って行くやつは他人のものを勝手に持っていく。
取り違えた可能性もあるし、こんな場所ではよくあることだとあきらめながらも、
いつもよりも乱暴な足取りでホステルを出る。
パブで飲むと高い上、この国の人々は妙に見知らぬ人間に対して好奇心が強く、話しかけてくるから煩わしい。
スーパーで安いのを買って、部屋の二段ベッドの上で飲む。
部屋は8人相部屋で顔見知りもいないが、今の時間なら誰もいないから煩わしいこともない。
ホステルから外に出ると、まだ3時を回ったばかりなのにパブの外の席で数人が盛り上がっていた。
黒いビールが注がれたジョッキを片手に、どこの国だか知らないが、英語ではない言葉をしゃべり、大声で笑いあっている。
そのうちの一人、ひときわ明るい金髪の男がゾロをちらりと見やって何かを言う、全員がいっせいにゾロに目をやる。
見た目から明らかにこの国や周辺の出身でないとわかる姿をしていて、なにかと注目されるのは知っている。
けれどもやはり不愉快なことにちがいはなかった。
ゾロが眉間の皺を深くしながら彼らの横を通り過ぎかけたとき、
「アリガートゴザイマース」
と、ゾロの国の言葉を言っているが聞こえた。
おもわず振り返ると、件の金髪の男が立ち上がり、胸の前で手を合わせ、軽く腰を折ってもう一度、
「アリガートゴザイマース」
母国語が違う者特有の奇怪な発音だが、わからないほどではない。
しかもなんだか少し勘違いしているようなしぐさがついている、でも嫌なかんじはしない。
ゾロと目が合うと、金髪はにっこりと笑った。
「英語しゃべれる?」
その無邪気な笑顔にさっきまで沸騰しそうだった怒りが行き場をなくし、ゾロは面食らった。
「・・・しゃべれる」
「よかった。日本人だよね?」
「ああ」
「おれ、サンジ。フランス人。日本人に会うの初めてだよ、会えて嬉しい」
自分も名乗るべきか、と一瞬迷っている間に、あれよと右手を取られて手の甲にキスされた。
優雅な仕草だったが、近づいた顔からはむわっと酒のにおいがした。
今どきこんな気障なことするか?
しかも男に。
「名前、なんていうの?」
「ゾロ」
「ぞろ?」
「そうだ。ゾロ」
「ゾロ」
なんだこいつ、とおもっていたら再び手をとられた。
今度は先ほどよりもたからかに音を立ててキスされた。
「よろしくね、ゾロ」
この酔っ払いめが。
でも、ほっぺたを真っ赤にしてとろんとした目でやわらかに微笑んでいるサンジにつられて、
おもわずゾロも笑ってしまった。
世の中にはまだまだわからねぇことがたくさんあるものだ。
8月23日の日記より。
実体験です笑
ゆきずりのフランス人フランソワサンジ(笑)に手の甲にちゅーされるゾロ。