冗談じゃないさ。









「手を握って」
彼の両手にそっと右手をにぎられる。
その手を彼の左胸に押し付けられると、薄い布越しに彼の鼓動が伝わる気がした。
「目を合わせて」
彼の両目がしっかりと合わせられる。
青い混濁の彼の目はつくりもののようで、どこを見ているのかわからない。
怖い。
「小さな声でいいんだ」
肩をすくめる。
体が震えてしまいそうで、全身にきゅっと力を込める。
結末を知っている。
「あなたが好き・・・」





サンジのうちに上がりこんで、メシを食って、ただ他愛もない会話をしていただけだった。
だんだんまぶたが重くなってきて、サンジへの返事もおざなりになっていた。
そのときサンジは自分の恋愛話をしていた。
おい、まだ寝るなよと言われて、たぶん俺の恋愛経験について聞かれたんだと思う。
そんなもんはない、と答えると、お前は女の子相手にするのが下手そうだもんなと笑われて、
教えてやるよと冗談みたいに。





そう、冗談で、そしてあくまでもレクチャーなんだ。
本気なはずがない。
何よりあいつの傍にやってくる女たちにああ振舞っていると言っている。
あんなふうに触れて、あんな目で見て、あんな声で、告げて。
想わないほうがおかしい。
胸を、高鳴らせないほうがおかしい。
本気じゃないと知っているのに信じてしまいそうだ。
それが、怖い。










「・・・とまあ、こんなふうにだな」
ゾロはいつもの仏頂面を崩さないままだ。
少しくらい、その表情が変わるかも、なんて期待しなかったわけじゃない。
冗談みたいに教えてやると言ったけれど、口にしたのは本心だ。
ゾロが気付くはずもないけれど。
「やってみな。俺相手に」
まさか本当にゾロがやるなんて、おもってない。
ちょっとからかうだけ、冗談のつもりなのに。





「手を握って・・・」
彼の両手にそっと右手をにぎられる。
その手を彼の左胸に押し付けられると、薄い布越しに彼の鼓動が伝わる気がした。
「・・・目を合わせて」
彼の両目がしっかりと合わせられる。
赤茶の彼の目はまっすぐで、伝わらないはずの心まで見透かされてしまいそうだ。
怖い。
「小さな声で」
肩をすくめる。
体が震えてしまいそうで、全身にきゅっと力を込める。
結末を知っている、なのに。
「あなたが好き・・・」





そう、冗談で、そしてあくまでも練習なんだ。
本気なはずがない。
俺の中の否定要素が多すぎる。
だけどあいつが、あんなふうに触れて、あんな目で見て、あんな声で、告げて。
想わないほうがおかしい。
胸を、高鳴らせないほうがおかしい。
信じてしまいそうだ、確かに何かを期待している、そして間違いなく落胆するんだろう。
それが、怖い。










「上手いもんじゃねぇか」
冗談は冗談に。
それがどんなに不毛なことかわかっているけれど。
「・・・できねぇよ」
「え?」
「本気じゃねぇとできねぇよ」
「そりゃ本番は本気で好きな子にやるだろうよ」
「そうじゃなくて」
「練習の成果が発揮できるといいな」
「俺は」
「ま、そりゃいつになるやら。お前だしな」
「俺は!」





「俺はこんなこと本気じゃねぇとできねぇよ!」





「俺だってできねぇよ」
「・・・?」
「俺だって本気じゃなきゃ言わねぇよ。好きだなんて」
「お前、だってさっき」
「黙れ」










彼のくちづけはとても荒々しかった。
彼らしくないとそのとき思ったけれど、それは思い込みの中の彼に似つかわしくないだけで、
本当はこんな男なのかもしれない。
なにより飾らない本心だったんだろう。
それだけは、冗談じゃないさ。





あれは、告白だったんだろうか。
のちに疑いたくなったけれどなんとも彼らしい。
声を荒げ眉間にしわが寄って、もっとも雄弁な目は大きく見開いて。
怒鳴ったというのが正しい。
甘さも色気も欠片もないけれど、なにより飾らない本心なんだろう。
それだけは、冗談になんかさせない。







意味が・・・よく・・・わからな・・・っ・・・。
222hitで花貴さんに。遅くてごめんなさいむしろ世の中の全てにゴメーヌ。
リクエストは「怒るゾロ」ですがええとどの辺で怒っているのかは自由に想像して下さいませ(死