理由









ナントカって本曰く、愛には二種類あって、
ひとつはアガペー、無条件の、神からの愛、
もうひとつはエロス、見返りを求める、人間同士の愛、ならしい。
おれのあいつに対する愛はまさしくエロスってやつ。
あいつの背中がきれいだからあいつが好き、愛してる。
人間の愛がみんなそうなら別にこんな理由であいつを愛しててもかまわないだろ。






天気がいいから外で。
じゃがいもの皮をしゅるしゅると剥きながら、あいつの背中を眺める。
鍛錬、とかなんとか言って、上半身裸でクソ重い棒をぶんぶん振り回している。
元気だね、よくやるね。
呆れるけれど、嬉しいんだ。
あいつのしっかりとした筋肉がモコモコと動くのを見るのは面白い。
狭い船の上での、数少ない娯楽のひとつだ。
あいつの肌の上を、筋肉の隆起にあわせてつるりと汗のしずくがすべる。
腹、腕、足、どこも傷だらけで縫い目さえあるけれども、
背中だけは傷ひとつなくて美しい肌をしている。
そういうのが、危うくて、とてもいい。


『背中の傷は 剣士の恥だ』


それならおれが傷つけてやろうか。
そのとき、あいつは屈辱に震えるんだろうか。
誇りを守るとか言って、自決してしまうかもしれない。
不謹慎だけど笑ってしまう。
あいつなら、やりかねない。
本人は背中に傷がつくのは自分が死ぬときだけだと思っていそうだ。
でもできることならば傷ひとつなくうつくしいままの背中で死なせてやりたい。
美しいあの肌を、守ってやりたい。
完璧を保っているものほど脆く傷つき易いものはない。
だからこそ惹かれるんだ。
矛盾した気持ちを抱いてしまうんだ。
罪な男だ。
手元のじゃがいもはみんなはだかになってしまったから、もうキッチンに戻らなきゃいけない。
もっと見ていたかったのだけれど。






「んん・・・・・・ふ・・・・・・・・・は、ぁっ・・・」
セックスの体位はバックが好きだ。
今日は獣の姿勢で。
挿入して、そのまま動かないで、あいつの綺麗な背中に頬をぺたっとつける。
そして必死で中のものの大きさに耐えるあいつの呻き声を聞くのが好きだ。
じっとりと汗がにじんで、おれの頬にぴったりと肌が張り付くのがいい。
あいつが深呼吸をするときに、背中もふくらんでまたちぢんでいくのがいい。
「あ、あ・・・・・・・・・・・・あっ」
ゆっくりと動きはじめると、あいつの全身に力が入って、背中の筋肉もきゅうとしまる。
背筋の溝に舌を這わせながら腰を使う。
耐えかねるようにあいつの喘ぎは増してゆく。
日焼けしたあいつの肌は、赤味を増して熱くて、美味そうだ。
おれの汗も、あいつの汗も、背中で混ざって弾かれて、つうと流れていく。
その感触で、それだけで、あいつがびくりとするのもすごくいい。
「ふっ・・・・・・ア、はっ・・・・・・ぁっ・・・・・・・・・」
限界が近いらしい。
肘が崩れて、背中が反って、腰だけ突き出したいやらしいポーズになる。
両手で一生懸命つかまる場所のない床にしがみついている。
おれも上半身を起こして本格的に激しく動く。
おれの最後も近い。
あいつのからだのすべてが、魅惑的に、天上に誘うようにうごめいている。
「・・・あっ、も・・・・・・もぅ、イっ・・・・・・・・・」
あいつがイって、それから少し遅れておれも達した。
イくときのあいつの背中は最高潮にいやらしい。
びくんと大きく反って、筋肉が緊張して、それからすぐに弛緩して、だらりと床に落ちる。
その動きは、背中が一枚の板ではなく、
さまざまなものがあわさってひとつの背中を作り上げていることをおれに教える。
あいつの背中は、そうだ、何かの芸術みたいだ。






甘いはずのピロートークもおれとあいつではしょっぱくなる。
そもそも倉庫の固い床の上に枕なんてものはありゃしないのだが。
「お前は」
このひとときにあいつはいつもほとんどしゃべらない。
なのに珍しくあいつのほうから話しかけてきた。
「お前は、その、おれの、どこが好きなんだ」
そんなこと聞いてくるなんて意外だ。
そういうことは気にしないタチだと思っていた。
「答えろよ」
ああ、でも顔まっかだ。
かわいい。
よくないよ、そういうの。
もう一回したくなるだろ。
「おい」
にやにやしてたら軽く殴られた。
お気に召さなかったらしい。
結構痛い。
しょうがねぇの。
「背中」
「・・・・・・・・・?」
虚を突かれたように動かなくなった。
そりゃそうだよな。
どんな答えを期待してたんだか知らねぇが、背中、じゃあな。
「愛には二種類あってな」
アガペーと。
エロスと。
アガペーはキリスト教のいわゆる神の愛で無条件に注がれる。
エロスっつーのは人間同士の愛でだな、まあ、見返りを求めるわけだ。
きれいだからとか、やさしいから、とか。
おれはお前の背中が綺麗だから好きで、そんでお前が好きだよ。
愛してるよ。






どうも、お気に召さなかったようで。
それからしばらく、あいつは口をきいてくれなかった。
そりゃそうだよな。
向こうはたぶん、一世一代の決心でもって聞いてきたんだろうに、あんな蘊蓄まで垂れられて。
そんなんが聞きたかったんじゃないんだろう。
でも、じゃあ、お前はおれの、どこが好きなの?






「眉毛が巻いてるところ」
虚を突かれて動けなくなった。
あいつは怒ったように背を向けた。
薄い布越しに背中の筋肉の形がわかる。
しばらくぶりにあいつに話しかけた、お前はおれのどこが好きなんだ、と。
「考えたんだ。けどおれ、やっぱりわからなかった。どこが好きかなんて」
顔がまっかだ。
かわいい。
「理由なんかねぇんだよ」
はずかしがっているけれど、とても、伝えたくてたまらないって。
全身で訴えてる、かわいい。
そうだ、おれはこういうとこも好き。
「好きなんだってことだけはわかる」






それでいいんじゃないだろうか。
難しいことなんか考えなくても、ただおれたちは抱き合えるから。
お前の背中は確かにとても好きだけれど、そんなことは関係ない。
好きとか愛してるとか、そういう不確かなものに理由が欲しくて言葉にするだけなんだろう。
ほんとは理解もできない理論も蘊蓄も必要ないんだ。
理由なんか、おれとお前の間には、いらないんだ。






愛しているよ。 それだけでいい。







海賊を書くことに慣れることが目的のはずが、いつのまにかEROに挑戦に目的すりかわってました。
やっぱりダメだね!全然エロくならないね!フェチズムとかもよくわかんないもんね!
経験として自分の中に具体的で明瞭になってないことっていまいち書けない。