Sincerely
体格はあきらかにゾロのほうが優っている。
背だって、わずかだがゾロのほうが高い。
力くらべと称した腕相撲でゾロが負けたことはない。
相手の特徴は、白くて細い腕、薄くて軟弱そうな肩、ひ弱に見えるしなやかな腰。
まるきりゾロとは対照的だ。
それなのに、今はどうしてか、さからえない。
ソファの上に押し倒されて、のしかかられて、両手首をつかまれているだけだ。
いくらでも抵抗して、おおいかぶさっている男をどかすことがゾロにはできるはずなのだ。
それなのに、ゾロは身動きさえとれない。
まるで金縛りにでもあったかのように。
「ゾロ・・・」
彼の声がかすれているのは欲情しているから。
青い目がまっすぐゾロに向けられている。
視線は標本の蝶のようにゾロをその場に縫い止める。
ゾロの部屋でふたりきり、夜のとばりが世界を包んでいる。
けれど低い天井の蛍光灯は、こうこうとふたりを照らしている。
「ゾロ」
ゾロはきゅ、と眉をひそめた。
ばかのひとつおぼえみたいに、サンジは名前を呼びたがる。
それはけして嫌じゃない。
嫌なのは、そんなにあふれそうなほどに潤んだ瞳で見下ろしてくることだ。
蛍光灯の逆光で、影になったサンジの顔は、瞳ばかりがきらきらと浮かび上がって見える。
それには絶対にさからえない、という気にさせられてしまうのが嫌なのだ。
「ゾロ、していい?」
だめって言ったら止まるのか、そんな思いがよぎったが口にはださない。
そんな問答は無駄なだけだ。
まっすぐな欲望だけをうつした瞳、表情を目の前にして、
ゾロが彼の腕から抜け出すことなどできるはずがないというのに。
ゾロからするキスは、合図のかわりだ。
口での返事をしない、できないからそうする。
サンジの頭をまわした腕でひきよせて、首をのばしてくちづける。
舌はいれない。
どうせサンジが全部からめとってしまうものを、
わざわざゾロのほうから与えてやらなくてもいい、とおもうからだ。
ゾロの部屋のソファはおおきくてふかふかで、ゾロの体がうもれるくらいにしずむ。
ここでするのは、ベッドですると壊れそうなくらい軋むからだ。
ベッドはその上でなんども激しく抱き合ううち、
ゾロが寝るだけのときでさえ不安になるくらいぎしぎしいうようになった。
やめようぜ、ベッドが壊れる。
そうゾロが拒んでからはソファでするようになった。
ソファうえではじめても、最後には夢中でけもののように床にころがっていたりもする。
せまくってぴったりくっついてられるからソファはいいな、とサンジは言う。
ゾロは寝る場所がなくならなければそれでいい。
今もサンジはぴったりとくっついてゾロの服を脱がせている。
ゾロもまどろこしくてたまらないが、サンジのシャツのしゃれたかたちのボタンをはずしてやる。
そうすると、サンジがよろこぶと知っている。
ゾロは、自分が自分の快感を追うので精いっぱい、になるまでは、
サンジの体を探るようにいじるのが好きだ。
サンジがゾロのベルトをはずしにかかっている間に、
ゾロはサンジの背中に手をまわしてみる。
はじめは前をひらいたシャツの上から、次は布の下に手をつっこんで、
すこし汗ばんだ男の背中のすべすべした感触を味わった。
さすっているうちに、見た目ほど華奢な体をしていないのが筋肉のつきようでわかる。
そうこうしているうちに自分ははだかにされて、サンジに乳首を吸われていた。
「やっ」
「やじゃねえ」
サンジのタイミングはゾロのことばをさきまわりするようだ。
「きもちいいだろ」
さとすように言う。
ゾロには、自分の両方の胸のまんなかのあたりで、
ふだんは気にもとめないちいさな粒がきゅうとたちあがっているのがわかる。
筋肉がおもいきりちぢこまって痛いくらいだ。
でもサンジの舌が執拗にそこを交互にねぶるたび、
背筋をびりびりと快感がかけあがってくるのも確かなのだ。
体温が急上昇しはじめる。
「すっげー腫れてるみたいになっちゃった・・・痛くねぇの」
尋ねておきながら、ゾロに返事をできなくしているのはサンジ自身だ。
耳の裏にかみついたり、腰を撫であげたり、入念なサンジの愛撫はしつこいくらい。
そのうえさらさらと流れる金髪も、ざわとでないのにくすぐるように肌の上をすべるから、
ゾロは息をつく間もなく喘がされてしまう。
喉の奥のほうが乾いて、すこし痛い。
そんなことをサンジは知らない。
「ん、あ、あ」
「ゾロ、すごい・・・」
熱っぽくこもった声が下のほうからきこえる。
「いっ・・・ひぁ、」
「すごいよほら、ゾロ見てよ」
サンジににぎりこまれたゾロのものは、切ないくらいにはりつめている。
見なくたってゾロにはわかる。
見たくもないというのに、サンジがゾロの足の間にもぐりこんでそこに顔を埋めてしまうから、
焦って視線を向けてしまった。
目があうとサンジは意地悪くほほえんで、うわめづかいで目をそらさないまま、
見せつけるようにゾロのものを口にふくんだ。
「あッ・・・!」
口でされるのははじめてなわけではない。
だがゾロは何度されてもそれに慣れることはなかった。
はずかしさときもちよさがせめぎあって、
最終的にきもちいいほうがまさってゾロは達してしまう。
そんな自分のあさましさを知らしめられるみたいなのが好きではないのだ。
「やッ・・・やめ、あっ、ンっ」
サンジはゾロの抗議もおかまいなしだ。
日に焼けた肌の色にさえ隠せないほど、ゾロの全身は赤く火照っている。
体は完全に快楽に流されているのに、
それでもなお意志を保とうとあらがうさまは卑猥そのものだ。
サンジがわざと水っぽい音をたてるたび、ゾロの腰がびくりとはねあがった。
「ひ、んっ・・・ふ」
ゾロの足が自らおおきく開いていっているのに、もうゾロは気付けない。
やがてサンジの指はうしろのほうまで這っていった。
やわらかく綻んだ経験のある場所は、堅く閉ざされている。
しかしサンジの指と舌とでやさしくほぐしていくと、
そこはまるきり従順にほころんでサンジをうけいれる用意をする。
ゾロが望むか望まないかに関係なく、体はサンジとのセックスに慣れているのだ。
「ん・・・ふっ」
「ゾロ、ゾロ、いれていい?」
サンジが耳元でささやくのはわざとだ。
ゾロの体がひときわ大きくはね、腰がゾロの意志と無関係に揺れる。
サンジが満足そうにいやらしく笑う。
「いれるよ」
正面から抱き合うのは顔が見えた方が興奮するからだ。
おもわずゾロはぎゅう、と体に力をいれる。
「息はいて、力ぬいて・・・」
ゾロの意識をそらせるように、サンジはゾロのうえにキスの雨を降らす。
ゆっくりとサンジが腰をすすめ、ゾロが全部のみこんだとき、
ゾロは衝撃をこらえるようにかたくつむっていたまぶたをひらいた。
目の前に汗をたらしたサンジの顔がある。
サンジの顔でゾロの視界に蓋がされている。
金色の髪が汗で額や頬にはりついたサンジの頭のむこうがわの天井も見えない。
ただ、蛍光灯の逆光で、青い目ばかりがきらきらしている。
「ゾロ・・・大丈夫?」
やさしくゾロの心配などしてみせているが、ほんとう今すぐにでもうごきだしたい、という表情だ。
薄皮一枚の理性で、限界ちかくまで熱を上げた欲望を押しとどめて、ゾロをいたわっている。
ゾロはその事実にたまらなく浮かされ、感じてしまう。
一番好きな瞬間、ゾロがほとんど唯一サンジに欲情する瞬間だ。
鼓動がひとつ、激しく高く鳴る。
胸にあふれているのは、たぶん、ときめきというやつだ。
素直にサンジをいとおしいとおもう。
もともとのできかたとちがうふうに無理やり体をひらさかせていることも、
けして悪いことなどではないと信じられる。
体内に脈動を感じるサンジを、もっと感じたいとおもう。
サンジの首に腕をまわし、抱きよせる。
「うごいて」
耳に直接そそぎ込むように囁く。
それからサンジの耳の裏のやわらかいところに吸いついて、所有のしるしを残しておく。
薄い体がぶるり、と震える。
「・・・ゾ、ゾロぉ」
情けないような音がサンジの唇から洩れ、
それからスイッチがはいったように部屋がますます湿っぽく熱くなっていく。
息づかいにまざってソファの皮のぐいぐいいう音やゾロのピアスの揺れる音、
それから擦れる水音、いやらしい音がくっきりと響き、ふたりはほとんど同時に達する。
ゾロの全身の筋肉はいっぺんすべてきつく締まってから、ゆるゆると弛緩する。
呼吸をととのえるのには、まだ時間がかかりそうだ。
力のぬけたゾロの体の上に、サンジの体がおちてくる。
サンジの体は、ゾロにしてみればとても軽い。
さっきまですこしの抵抗もできそうにない男だったのが嘘みたいだ。
「ゾロ、好き」
「・・・・・・」
「超気持ちよかった」
「・・・・・・」
「ゾロは?」
「・・・・・・寝る」
狭いソファからサンジを蹴落とし、寝返りをうつ。
サンジはうわ、といってしりもちをついたが、めげずにゾロにくっついてくる。
「ゾロ、好き」
「・・・・・・」
「もっかいしよ」
「・・・・・・」
この時間は好きだとも気持ちよかったとも言う時間ではない。
サンジはそういうのを好むし、何度だってしたがるのを知っている。
けれど少なくともゾロにとっては、あの瞬間、
心からサンジをいとおしいとおもった瞬間をかみしめる時間なのである。
管理人@粒宝のエイチーンバースデーのお返し。
みんなさま、やさしさを、愛をありがとうございました。