よわむしの必勝法









皿洗いを終え、布巾で手をぬぐう。
キッチンは使用前より美しく片づけたし、鍋に残った夕飯の味付けを少し変えて、
明日の昼飯にでもできるようにもした。
ゾロのための完璧な仕事に、サンジは満足している。
「それじゃ、おれ帰るな」
リビングのソファでごろごろしているゾロに声をかける。
ゾロはいつもどおりの不機嫌そうな顔をしていたが、
一瞬だけびっくりしたみたいな表情がはしったのを、サンジは見逃さなかった。
「ふうん」
そっぽをむいて気がなさそうにしているゾロの頭をの感触をてのひらで確かめる。
ゾロの髪は堅くて、しなってちくちくする。
「鍋に夕飯の残りのポトフがあるから、明日食べろよ」
ゾロは返事もしない。
仕方がないなあ、とサンジはおもう。
「ゾロ、じゃあまた来るからね」
言い終わるか終わらないか、ゾロがサンジのほうを向いた。
とおもうと、サンジは足の間が圧迫されるのを感じた。
視線を落とすと、すらり、美しい足が伸びて、服の上からサンジのものに触れている。
ゾロの足の指が、巧みにサンジのもののかたちを変えようとしている。
ざわ、と逆毛がたつような感覚がする。
サンジの帰ろうとした体は、しかし、動けなくなってしまった。
さわられている場所もさることながら、ゾロがあまりにも妖艶であったから。
「帰るんだろ?」
いたずらっぽく目を伏せる、まるで海千山千の、金で買われる女のように。
紅を引いたわけでもないのに色づいた唇から、真珠のような前歯がのぞいている、
赤は赤く白は白い、本能が揺さぶられる、血液が熱くなりはじめる。
サンジの体は、正直に反応する。
「ゾ、ゾロ」
「なに?」
うわずった声のサンジに、ゾロは小首をかしげ徒っぽく笑う。
不機嫌そうな表情は消え、サンジをからかうときの、楽しそうで苦しそうな顔になる。
ハーフパンツから伸びた裸足の足は毛が薄く、均等についた筋肉が爪先の戯れにあわせて流れるように動く。
ゾロの愛撫は乱暴なのに壺を心得ていて、馴れているんだろうな、と思わされる、
そうおもうとぞわ、と背筋に悪寒が走る、すぐにせりあがる快感に変わる。
ちいさな足の爪も、膝のかたちも、くるぶしの張りも、意外なほどの足首の細さも、なにもかもがサンジを煽る。
ゾロの瞳の、コケティッシュに潤む輝きの奥底の、必死さも。
ほんとうに仕方がない。
「帰るんだろ」
ひたすら甘く、ゾロはささやく。
もしかしたら声は無かったのかもしれない、みせつけるようにはっきりと唇が動いた。
耳も首もいかれたみたいに熱い。
聞こえないはずのなにかが聞こえそうなほど。
「なあ、帰らねえの?」
すっかりかたくなったサンジを足の裏に感じ、ゾロはおもしろそうな、余裕の表情だ。
彼はどんな男も端的な、体の欲求には勝てないのを知っているのだ。
「・・・やめるよ」
そう言ってサンジがソファに乗り上げ、熱い吐息がゾロの首筋にふれると、ゾロは安堵したように体の力を抜いた。
はあ、と浅く長い息をつくのを、聞き逃さなかった。
抱きしめたゾロの体は、少し汗ばんでいる。







11月11日の日記より。別にゾロ誕のつもりとかじゃ、なかった。